ハイファッションに身を包む女性から医者や弁護士といったキャリアウーマンやハリウッド女優まで、幅広い女性から支持されるジュエリーブランド「シャルロット・シェネ(CHARLOTTE CHESNAIS)」。一見するとそれが何だかわからない、しかし、身につけると驚くほど体の曲線になじむ静かに主張するデザインが特徴だ。昨秋、約1年ぶりにパリにいるシャルロットを訪ねた。
新しいロゴはエムエムパリス(M/M Paris)が手がけたとか?
エムエムパリスの2人と初めて会ったのは、私が「バレンシアガ(BALENCIAGA)」で働いていたころのこと。いつか一緒に仕事をしたいと思っていたけれど、ブランド設立当時はタイミングが合わなかった。だから、以前のロゴは自分でささっとデザインしたの。それも悪くはなかったけれど、あまり気に入ってもいなかったわね(笑)。それから2年後、2人と再会してロゴをお願いしたのよ。
ロゴはエムエムパリスらしさとあなたらしさが共存している。
彼らの作品は一目見ただけで分かるもの。ロゴデザインのベースになったのは2つのCが重なったイヤリングだから、私のブランドであることも伝わるのね。
価格が少し上がったが。
見た目の美しさだけでなく、ハイクオリティーゆえの美しさを追求しているので、その影響で価格が上がった。ショップから「私たちには高すぎる。安かった時の方が好きだった」と言われてしまうこともあるけれど、安いジュエリーを作っていた時は、クオリティーに納得できないことが多かった。今は、すべてのアイテムを「エルメス (HERMES)」と同じ工房で作り、生産量は増えすぎないように制限しているわ。
一見すると何かわからないアイテムが多い。
私のジュエリーを見て「これは何?」「リング?」「イヤリング?」「それともブレスレット?」「一体どうやって身につけるの?」と聞く人は多い。そもそも自分をびっくりさせたいと思いながら作っているからかもしれないわね。ただ、悩みの一つは「複雑すぎる」と諦める人もいること。私のブランドを知っている人は、ジュエリーに仕掛けがあることを分かっているし、テーブルに置いた時と身につけた時では、見え方が違うことを理解してくれている。でも知らない人には、説明しなければならない。複雑に見えるけど、つけてみると意外とシンプルでしっくりなじむってね。見た目に美しいけれど、身につけることで素敵な相互作用が生まれるジュエリーを作りたい。私は“ジュエリーをデザインしている”と思って作っていないの。アトリエの中で、職人さんと一緒に写真を撮ったりしながら「どうすれば耳になじむのか」「このデザインに隠された仕掛けは何なのかな」と考えながら制作している。
「バレンシアガ」の経験に通じている?
ええ、おそらくね。「バレンシアガ」では、ラボラトリー的なアプロ―チでのモノ作りを学ぶことができた。「ジャケットを作りたいから、まずはジャケットのデザイン画を描きましょう」とはならず、下着だけを身につけたモデルに生地を巻き付けては写真を撮り、別の生地を巻きつけては作っていたから。
顧客は流行の最先端を行く女性からコンサバな女性までと幅広い。
確かにそうね。あらためて気づいたわ。でもね、デザインしている時は、実は顧客のことを考えてはいなくて、誰も見たことのないようなジュエリーをデザインすることに夢中で、形やデザイン、身につけた時のバランスに情熱を注いでいるわ。
幅広い女性に支持される理由をどう分析する?
コレクション自体はピュアでシンプルだからかしら。複雑に見えても、基本的にはシンプルなスタイルを貫いている。私自身、ただのハイファッションブランドではないことを誇りに思っている。医師として働いている姉も、職場で私のジュエリーを身につけているし、主張しすぎないところを気に入ってくれている。私も母になり、前よりはファッションに興味を持たなくなった。今日もいたってシンプルな服を着ているでしょう。クレイジーなファッションに身を包んでいた8年前とは違う。(「バレンシアガ」のデザインチームで働いていた)当時はニコラ(・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)の想像力をかき立てるような存在でいないといけないと思っていたから、ファッションショーに登場するような洋服で働いていたわ。周りの女の子たちもみんなそうだったから、まるでコンテストのようだった。私もだいぶ落ち着いたわね(笑)。
双子の母になったことで、変化はあった?
妊娠中のトラブルもなく出産もスムーズで、赤ちゃんもたくさん寝てくれるから、あまり疲れていないし幸せを感じているわ。メンタリティーはクリエイティビティーにも影響を与えると思う。仕事もプライベートも充実しているから、私のクリエイションにもいい影響を与えていると思う。
ファインジュエリーも始めた。
ファインジュエリーを始めて1年半が経ち、まだまだ勉強中だけど、ファインジュエリーとコスチュームジュエリーではアプローチが全然違う。例えば、売り方。ファインジュエリーの場合、多くの店が委託販売を希望する。でも小規模なブランドにとって、委託販売は負担が大きすぎる。コスチュームジュエリーだけを作っていた時は、委託販売を希望されたことはなかった。販売店としてはリスクを負いたくないから委託販売を希望するのは理解できるけど、売れるまで利益がないのは正直きつい。デザイナーなら誰もが抱える悩みだし、どのブランドも同じ問題を抱えているから、文句を言いたいわけではない。けれども、ファインジュエリーを作っている個人ブランドは世界中どこを探してもあまりないし、ほとんどのブランドが大手グループに属して支援を受けている。私にとって、個人でファインジュエリーのような高価でリュックスなものを作り続けるというのは、大きな挑戦であり、最大の課題になっているわ。
作るときのアプローチも異なる。
デザイン性が高い大胆なファインジュエリーを作ることもできるけれど、奇抜なデザインに投資しよう!という人は少ないと思う。デザイナーにとっては頭の痛い話だけど、ファインジュエリーともなるとマーケティングも視野に入れていかないといけない。デザイン、価格、マーケティングのバランスが大事よね。コスチュームジュエリーやファッションアイテムと違い、ファインジュエリーは誕生日や結婚式などの記念日やお祝いと深いつながりがあるから。最近は、自分へのご褒美としてスペシャルなジュエリーを購入する女性も増えているけれど、車やマイホームを購入するような覚悟が必要でしょう?限られた材料、限られたゴールドやダイヤモンドで人々の興味を引くようなジュエリーを作るのは、私にとっても大きなチャレンジ。ボリューム感のあるジュエリーも作ってみたいけれど、ゴールドを使うときは、限られた予算内で魅力的なピースをデザインしなければならない。チャレンジであり、それを乗り越えるためにもっと頑張ろうと思っているわ。